朝日新聞に掲載されました。(2005年4月29日)



 20代から30代の団員14人はアルバイトをしながら、稽古に励む。夢現舎の特徴は、主催者で演出家の小竹林早雲さん(53)を中心に、役者たちが即興で物語を作り上げること。同じ題名の芝居でも、数カ月後には時代設定や登場人物、物語まで変わることがある。
  ロンドン公演の作品「蟻のごちそう」は「人の愚かさ」がテーマ。衣装は着物をアレンジし、能や狂言など伝統芸能を取り入れた。架空の町・蟻塚町を舞台に、不平不満ばかりで退屈した日々を送る住人たちの様子をこっけいに見せ、最後には氾濫した川が町や人をのみ込むという物語。
  英語のナレーションを所々にはさんだほか、英語が書かれた手ぬぐいや新聞などの小道具を使い、楽しく理解してもらえるよう工夫した。
  小竹林さんや団員たちは97年の結成から3年間、公演活動はせず、けいこに専念した。ロンドンやニューヨークで半年、芝居を学んだ小竹林さんは「ロンドンで生まれた芝居が米国や日本でヒットする。ロンドンを劇団の活動拠点にしたい」と考えてきた。02年12月、初の海外公演をロンドンで実現した。
  東洋から来た無名劇団にとって、壁は厚かった。しにせ劇場から「実績がなければ貸せない」と断られた。今回は2度目の海外公演だったが、1カ月という長期公演は初めて。最初のうちは観客が5人という日もあり、団員たちは悔しさをかみしめた。毎日、街で宣伝用のビラを配った。
  流れが変わったのは中盤。複数の雑誌に芝居を絶賛する記事が掲載され、口コミで客は増えだした。期間中、5回も見に来た客もいた。最終日には、訪れた客が劇場に入りきらないほどに。幕が下がる時には観客が総立ちし、劇場は大きな拍手に包まれた。
  「目の前の光景が信じられなかった」と役者の益田喜晴さん(32)。ロンドンの観客について「面白い場面では拍手し笑い、素直に反応する。純粋に芝居を楽しむ」と日本との違いを感じた。
  「次はぜひうちで公演を」。帰国後、小竹林さんのもとに打診が来た。02年のロンドン公演の際、無名を理由に断られた劇場からだった。認めてもらえたようで、うれしかった。来年も、海外で挑戦するつもりだ。

2005年4月29日(金曜日) 朝日新聞に掲載

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